いわさきちひろ生誕100年 ピエゾグラフ展 アンデルセンの世界

百年もの年代の差をこえて、わたしの心に、かわらないうつくしさをなげかけてくれるアンデルセン――。むかしふうの文章なのだけれど、その中にいまの社会につうじる、同じ庶民の悲しさをうたいあげているこの作家に、わたしは、ずいぶん学ぶことが多い。アンデルセンの童話のもっている夢が、たいへんリアルであるということが、現代のわたしたちの心にもつうじるのであろう。

いわさきちひろ 1964

いわさきちひろは、20代後半に紙芝居「お母さんの話」を手がけて以来、毎年のようにアンデルセンの童話を描いています。「おやゆび姫」や「人魚姫」、「絵のない絵本」など、繰り返し描いている童話もあります。アンデルセンの描き出す世界の美しさ、悲しさ、夢、真実――時を経ても色あせることのないその魅力にちひろは惹かれ、深く共感していたのでしょう。想像力をふくらませ、登場人物や異国の情景に工夫を凝らして描いた童話の絵は、子どもを描いた絵とはまた異なる、ちひろの画業の一端を形作っています。
本展では、ちひろが愛したアンデルセン童話の世界を、ピエゾグラフ*作品で紹介します。

 
*ピエゾグラフとは……ちひろ美術館では、現時点でのちひろの作品の色合いや風合いをデジタル情報として保存し、最新技術の「ピエゾグラフ」という方法によるデジタルアーカイブと「ピエゾグラフ作品」としての複製に取り組んでいます。耐光性のある微小インクドットによる精巧な画像表現は、繊細な水彩画の再現性を飛躍的に高め、明るい光のもとでの絵の鑑賞を可能にしました。