いわさきちひろ生誕100年 ピエゾグラフ展 日本のおはなし
どんどん経済が成長してきたその代償に、人間は心の豊かさをだんだん失ってしまうんじゃないかと思います。……そのことに早く気づいて、豊かさについて深く考えてほしいと思います。私は私の絵本のなかで、いまの日本から失われたいろいろなやさしさや、美しさを描こうと思っています。それをこどもたちに送るのが私の生きがいです。
いわさきちひろ 1972年
いわさきちひろは、日本の童話や文学をもとにした作品も多く描いています。日本を舞台にした作品では、光も風も肌で知っている風土ならではの、豊かな情感が表現されています。着物を着た人物の微妙な物腰を通して性格や感情が語られ、水をたっぷり使った水彩のにじみからは大気の湿度や雪の質感までもが伝わってくるようです。本展では、「鶴女房」型の民話をもとにした松谷みよ子の『つるのおんがえし』、節分の晩の子どもの鬼と少女との交流を描いた、あまんきみこの『おにたのぼうし』、ちひろの未完の遺作となった小川未明の『赤い蝋燭と人魚』など、日本のおはなしを描いた絵本をピエゾグラフ作品で紹介します。
*ピエゾグラフとは……ちひろ美術館では、現時点でのちひろの作品の色合いや風合いをデジタル情報として保存し、最新技術の「ピエゾグラフ」という方法によるデジタルアーカイブと「ピエゾグラフ作品」としての複製に取り組んでいます。耐光性のある微小インクドットによる精巧な画像表現は、繊細な水彩画の再現性を飛躍的に高め、明るい光のもとでの絵の鑑賞を可能にしました。